hypo- の日記や感想を置いています

ねうねう vol.4 感想

収益が全額保護猫活動に役立てられる猫づくしの俳句アンソロジー誌「ねうねう」の vol.4 に参加しました。

 

悲しくもねうねうはこの号でしばらくお休みとなってしまうのですが、今号でも読むほどに猫、猫、猫を味わえる楽しさは変わりません。

 

恋猫の眼に火柱の立ち上がる / 金子敦

 

恋猫のあの声も火柱の音だったのか!と思うほど、あざやかに景を結んでいる一句だと思いました。

 

定年とふ些事よ仔猫の寄り添へる / 石田経治

 

仔猫の前には定年さえ些事になってしまう…寄り添った人と仔猫の満ち足りた様子が見えてくるようです。

 

その中の一対さかる収容猫 / 堀田季何

 

保護施設に収容されたたくさんの猫の中の光景でしょうか。猫の生き物としての姿が生々しいと思いました。

 

缶詰のビニール袋寒月光 / 黒岩徳将

 

かん、とかんげっこう、が硬い音で響き合う一シーン。家ではあたたかい猫が待っているのでしょうか。

 

アネモネや生まれ変わらば夫の猫 / 家登みろく

 

猫を愛する人のもとに猫として生まれたい…現世への憂さを明るい春の季語アネモネがふちどって、幸せな色にしている気がします。

 

そんなことより猫のご飯や目借時 / 猫愛すクリーム

 

人類は猫のしもべ…もう猫を飼っていないわたしですが、猫のご飯で気持ちを切り替えさせていただく栄誉は忘れずにいこうと思います。

 

ほかにもとりあげきれないほどの猫句の数々。句にはふりがなもついていて、俳句に馴染みのない方にも安心です。読んでみたい方はぜひ編集の家登みろくさん @miroku_cat の twitter などをチェックしてみてください。

ちゅいんぐゎ vol.6 感想

一人っ子の方三人(住田別雨さん、松本てふこさん、ミヤコンドリアさん)が作っていらっしゃるちゅいんぐゎというネプリ(今回は note で公開されています)を読みました。

 

お題は、仮想遠征ということのよう。

 

詩「処女地区」(住田さん)は言葉で街を作っているような詩だと思いました。色や風景が模様になり模様がリズムになり、また濃淡に戻利、何かの興亡を見ているようです。五色のリボンの糸電話が好きです。宝塚の五色の虹からきているんでしょうか。

 

俳句連作「遠征に行きたい」(松本さん)は遠征に行きたい気持ちがリアルに感じられてくる作でした。コインロッカーの句が大きな荷物をがしがし出し入れしている感じに、薄暑が効いていて好きです。その後身軽になって風が吹いてきてスタジアムに行くのですね。

 

ミヤコンドリヤさんの写真のベンチのナップサックが、そこにいない人を感じさせて、ぐっときました。

 

大変な中ですが、またの発行も楽しみにしています。

ねうねう vol.3 感想

収益が全額保護猫活動に役立てられる猫づくしの俳句アンソロジー誌「ねうねう」の vol.3 に参加しました。

 

vol.1、vol.2 に続き、vol.3 でも尽きることのない猫句の数々に、俳人の目と猫の魅力の奥深さを思いました。

 

自爆する直前仔猫撫でていし / 堀田季何

 

仔猫の感触とそのあとの瞬間が俳句の短さとともにそのまま胸に突き刺さって来るようでした。

 

恋猫のこゑ短調に変はりけり / 金子敦

 

春先の猫の声が短調になる瞬間、たしかにある気がします。フラットがたくさんついていそうな、再現の難しい色合いの声。

 

煤掃やわが猫の持つけものみち / 櫂未知子

 

年末の掃除をするときに気づく、足跡や、寝ていた跡の気配…けものみち、という短い語に猫の持つ付かず離れずな距離が見える気がします。

 

餌の山を明日別るる猫の仔に / 家登みろく

 

保護猫を里親さんに渡す前の日の光景でしょうか。山になった餌、に不安と祈りの入り混じった思いを感じます。

 

猫の子のちょうど餃子のやわらかさ / 近江文代

 

そ、そうなのか…わたしは猫の子に触れたことがありませんが、餃子を包むときに思い出してしまいそうな説得力がありました。

 

アフロヘアの青年仔猫抱き上ぐる / 弓雄

 

仔猫を抱き上げる動作が優しいと、三割増しぐらいでいい人に見える気がします。この青年もきっといい人なのではないでしょうか。

 

などなど、紹介しきれないほど、素敵な俳句(川柳も!)がたくさんありました。

 

ねうねう vol.3 はもうしばらくすると amazon での取り扱いが始まる予定です。俳句に馴染みのない方のためにふりがながふってあるなど、とても読みやすい構成になっていますので、ぜひお手にとってみてください。

とらぬた vol.15 「粉」 感想

いつもわくわく出しにゆくチコとトレースさんのネプリ「とらぬたぬきうどんでおなかを膨らます唯一の方法 vol.15」#とらぬたを読みました。

 

寝る前にメガネをはずす 夜の夢にひるまの夢は連れてゆけない(しま・しましま @simashima9)「そして公爵はゆううつそうに粉を振って部屋を出てゆく」

 

なんとなく、ふつうの人とは違う時間軸…たとえば寿命がとても長いとか、もう死んでしまっているとか…で暮らしている人がこの世界のどこかでつぶやいてるような短歌だなあ、と思った連作でした。ものがなしさと、仄かな可愛らしさに、なにがあったのだろう…と話を聞いてみたくなります。

 

啼き終えたあと空中に跡形もなく消え去ってゆく鳥の歌(雀來豆 @jacksbeans2)「木粉粘土の鳥たち」

 

鳥の歌それじたいがひとつの存在で、そしてその存在ごと消えてゆく…という主題がとても好きな歌でした。かたちのある鳥、から、そこにはいない鳥、まで、いろいろな鳥の書き留められている連作に(鳥が好きなので)、ずっとひたっていたくなりました。

 

今号もくりかえし読みました。楽しかったです!

ちゅいんぐゎ vol.2 感想

一人っ子の方三人(住田別雨さん、松本てふこさん、ミヤコンドリアさん)が作っていらっしゃるちゅいんぐゎというネプリを読みました。 お題は「百合」。

 

詩「糸偏に告る(住田さん)」は互いが互いを見ている…というよりは隣りあって同じ方を向いて、時間を共有しているような印象があり、そこから感じられるものが好きでした。

 

俳句連作「I don't like Mondays.(松本さん)」はこちらを閉じ込めてくるような雪に、主体が体を使って色々なアプローチをしているせいなのか、自分の体も動かして参加しているような感覚を覚えました。

 

イラスト(ミヤコンドリアさん)もとても可愛い。左右の人魚さんの特別な存在という感じが好きです。

 

また別のお題も読んでみたいです。

とらぬた vol.9 「火」 感想

毎号楽しみにしているチコとトレースさんのネプリ「とらぬたぬきうどんでおなかを膨らます唯一の方法 vol.9」 #とらぬた を読みました。

 

冬ごもりなんかしないと雪のなか駆けだしてゆく弟と熊(雀來豆 @jacksbeans2

 

火を怖がらない熊と熊を怖がらない弟。二人(?)の駆け出してゆく勢いが、冬を散らしていきます。人の心には原初から火への恐れのようなものがある気がしますが、この世界ではそれすらも手をとりあって飛び越えてゆけそうな感じがしました。

 

旧式のガス給湯器の中に住むちいさな炎を希望とよんだ日(しま・しましま @simashima9

 

昔のガス給湯器にはちいさな窓があって、その奥に炎が見えました。熱さも音も窓のこちら側には届かず、たしかに心にそっと住まわせておくのにふさわしそうな存在でした。人の生活の中で確かに燃えているいろいろな炎の気配に気づく連作でした。

 

冬の匂いのするネプリでした。楽しかったです!